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横浜地方裁判所 昭和59年(行ウ)17号 判決 1988年6月14日

原告

総評全国一般労働組合神奈川地方本部

右代表者執行委員長

三瀬勝司

原告

松木傅十

右原告両名訴訟代理人弁護士

堤浩一郎

森卓爾

被告

神奈川地方労働委員会

右代表者会長

秋田成就

右訴訟代理人弁護士

榎本勝則

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の申立て

一  原告ら

1  被告が神労委昭和五七年(不)第二二号不当労働行為救済申立事件につき昭和五九年三月一五日付でした別紙記載の命令を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  被告は、申立人原告ら、被申立人訴外国、同横浜中央簡易保険払込団体連合会間の神労委昭和五七年(不)第二二号不当労働行為救済申立事件(以下、「本件救済申立事件」という。)につき、昭和五九年三月一五日付をもって別紙命令書記載のとおり命令を発し(以下、「本件命令」という。)、同命令書の写は、同日原告らに交付された。

2  本件命令は、次のとおり、事実認定及び判断を誤っており、違法である。

(一) 訴外国の当事者適格(被申立人適格)について

(1) 本件命令は、訴外国の当事者適格(被申立人適格)について、「しかしながら、以上のことは、その性質上いずれも業務上必要な指導、助言の範囲内のことであり、このことをもって、国が松木ら集金人の労働条件等労働関係上の諸利益に対し、現実的かつ具体的な支配力を有していたとまではいえない。また、国が松木ら集金人の解雇について具体的に指示していたとの事実も認められない。よって、国は本件について当事者適格を有しないから、主文のとおり国に係わる申立ては却下を免れない。」と判断している(別紙命令書、一四ないし一六頁)。

(2) しかしながら、訴外横浜中央簡易保険旅行会(以下、「旅行会」という。)、訴外横浜中央簡易保険謝恩会(以下「謝恩会」という。)、訴外横浜中央簡易保険人間ドッグ友の会(以下、「友の会」という。)の簡易生命保険料の各払込団体は、いずれも、訴外国(横浜中央郵便局)が主導的に結成した団体であり、また右三払込団体がその構成員となっている訴外横浜中央簡易保険払込団体連合会(以下、「連合会」という。)も同様である。

(3) 右三払込団体の代表者は訴外国が決定していたものであり、また、連合会、謝恩会等の役員も実質的には訴外国が決定していたものである。

すなわち、例えば、旅行会の会則七条三項は「払込団体の代表者は、役員とならなければならない。」と規定しているので、単位払込団体の代表者が国によって決定されることは旅行会の役員も国によって決定されることになる。また、連合会の規約七条二項は「役員は、各払込団体代表者の互選による。」と規定しているので、連合会の役員も実質的には訴外国によって決定されていることになる。

なお、右の互選が行われた形跡はない。

(4) 連合会、謝恩会等の団体及びその役員は何ら当事者能力がなく、訴外国が実質的にその職員の採用、労働条件の決定及び業務運営の具体的な方法等の決定をしていた。

(5) 以上の(2)ないし(4)の事実を総合すれば、訴外国(横浜中央郵便局)こそが、右の払込団体等の実質的経営者であり、連合会は訴外国の傀儡に過ぎなかったものといえるから、本件命令のいう、訴外国の諸行為が、「指導、助言の範囲内のことであ」るとの右(1)の認定、判断は明らかに誤っている。

国は、右の払込団体等の実質的経営者として、原告松木ら集金人の労働条件等労働関係上の諸利益に対し、現実的かつ具体的な支配力を有していたのであるから、本件救済申立事件について、当事者適格を有するというべきである。

(二) 原告松木の解雇(不当労働行為)について

(1) 本件命令は、原告松木の解雇について、「連合会に組合が結成された昭和五一年六月二日以前の昭和四七年九月及び昭和四八年九月に横浜中郵において追加加入のための勧奨を行わないことを決定しているのであり、その結果として、連合会が解散に追い込まれ、それに伴い松木を解雇する旨の意思表示があったものと判断せざるを得ない。よって、連合会の松木への解雇の意思表示が、労働組合の結成及び活動を嫌悪してなされたとする申立人らの主張は時日の経過からみて首肯しがたいところである。」と判断している(別紙命令書、一八、一九頁)。

(2) しかしながら、以下のとおり、訴外国は、原告組合及び同松木の組合活動を嫌悪し、原告松木の解雇を意図し、そのため、払込団体の追加加入のための勧奨を行わないことを決定し、右の措置を継続して、連合会を解散させるに至らしめたものであり、連合会の原告松木に対する解雇の意思表示は同原告の組合活動を嫌悪してなされた不当労働行為であるから(労働組合法七条一号、三号)、本件命令の右の認定、判断は誤りである。

(3) (訴外国の勧奨停止措置と払込団体の解散の関係)

前記のとおり、訴外国が謝恩会等の払込団体を結成していくのであるから、訴外国がその追加加入のための勧奨を止めてしまえば、いずれかの時期にはその払込団体は解散の事態に至ることは明らかである。

(4) (訴外国の勧奨停止措置の決定時期について)

① 各払込団体の集金保険料の額の推移は次のとおりである(但し、一万円未満切捨て)。

旅行会

謝恩会

友の会

昭和四五年度

二六六四七万円

三九〇七六万円

昭和四六年度

二九七二二万円

九三〇一六万円

昭和四七年度

三二〇三一万円

一一一三八一万円

昭和四八年度

三四三四一万円

一一二四二三万円

二九二二万円

昭和四九年度

三四五一二万円

一〇五九三四万円

三〇七九万円

昭和五〇年度

三五〇三七万円

九九八九七万円

四一二八万円

昭和五一年度

三一一五一万円

九四二〇〇万円

二七六三万円

昭和五二年度

一七二四五万円

五二一四一万円

一五二六万円

昭和五三年度

二七五八〇万円

八四九〇四万円

二五七九万円

昭和五四年度

二四四九一万円

七八四五一万円

二四三六万円

昭和五五年度

一六三一五万円

七五六八九万円

二五四七万円

昭和五六年度

一二六七六万円

四四八六一万円

二二二七万円

② 右によれば、旅行会及び友の会の集金保険料は昭和五〇年度において前年度のそれより増加しているが、同五一年度に至るとそれが初めて減少しはじめている。訴外国の勧奨年度は毎年九月に始まるものであるから、訴外国は昭和五〇年九月以降も引続いて追加加入のための勧奨を行い、新規の払込団体を組成していたが、同五一年九月以降は右の勧奨を行わないことを決定したものである。

③ 右の昭和五一年九月という時期をみると、原告松木らが、団体簡易保険労働組合を結成してその通知をしたのが同年六月二日のことであり、これに対し連合会が右組合を嫌悪し、一貫して団体交渉の申入れを拒否していた時期である。

そして、右労働組合は、払込団体の労働組合としては、全国でも初めて結成されたものである。

④ 以上の時間的経過をみると、訴外国の追加加入のための勧奨を行わないとの決定は前記の労働組合結成を嫌悪してなされたものであることは明らかである。

(5) (訴外国の勧奨停止措置の継続について)

① 訴外国の原告組合及び同松木を嫌悪する態度は、原告組合が被告に対し、昭和五二年四月一五日、団体交渉応諾の不当労働行為救済申立てを行った後においても変るところはなかった。

② 連合会は、昭和五二年三月中旬ころ、団体簡易保険労働組合書記長として原告松木らと共に中心的に組合活動を行っていた集金人の訴外佐藤晋に対し、委託契約期間満了を理由として、解雇予告の意思表示をした。

従来、集金人の中でかかる理由に基づいて解雇予告を受けた者は一人もいなかったことからみても、右佐藤に対する解雇予告は、訴外国及び連合会が原告らの組合活動をいかに嫌悪していたかを示すものである。

③ 横浜中央郵便局以外の他の局では、現在においても旅行会、友の会等が多数存在し、追加加入のための勧奨も行われ続けているにもかかわらず、訴外国は横浜中央郵便局管内の旅行会、友の会についてのみその措置をとろうとしなかった。

右のとおり、訴外国が対応を分けたのは、まさに連合会の中に労働組合が結成されたことによるものである。

よって、原告らは本件命令の取消しを求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1の事実は認める。

2  同2(一)の事実のうち、(1)は認め、その余は否認する。

別紙命令書記載のとおり、訴外国の当事者適格について、被告の認定した事実及び判断に誤りはない。

3  同2(二)の事実のうち、(1)及び(4)①は認め、その余は否認する。

なお、同2(二)(4)①について、各払込団体の集金額の推移表のうち、昭和五二年度は同年九月から翌五三年三月までの七か月間の集金額であるから、昭和五三年度が同五二年度に比べ増大しているのは当然である。

同2(二)(4)②ないし④について、横浜中央郵便局は、連合会に組合が結成された昭和五一年六月二日よりもはるかに早い時期である同四七年九月及び同四八年九月からすでに追加加入等の勧奨を行わなくなり、その結果として連合会が解散に追い込まれ、それに伴い連合会は原告松木らを解雇したものであって、その解雇が労働組合の結成及び活動を嫌悪してなされたものでないことは明らかであるから、別紙命令書記載のとおり、被告の認定した事実及び判断に誤りはない。

第三  証拠<省略>

理由

一請求の原因1の事実は当事者間に争いがない。

二同2(一)(訴外国の当事者適格)について検討する。

1  同2(一)(1)の事実は当事者間に争いがない。すなわち本件命令は、国は当事者適格を有しないとして、国に係わる本件救済申立てを却下している。

ところで、救済命令申立事件において、当事者適格(被申立人適格)の有無の問題は、労働委員会が実体的な審理判断をするについて、その存在が要件とされている事由(積極的要件)であると解されるから、本件取消訴訟においては、その実体的判断を求める原告が訴外国の当事者適格について主張立証責任を負うものと解するのが相当である。

2  また、救済申立ての当事者適格(被申立人適格)を判断するに当たり、労働組合法七条及び同法二七条にいう「使用者」の概念をどのように解するかが問題となるが、この点、不当労働行為制度は、労働契約上の責任追及を目的とするものではなく、労働者の労働関係上の諸利益を不当におびやかすような行為の排除を目的としているから、労働契約の当事者であるかどうかにかかわらず、形式(労働契約)上は第三者の地位に立つものであっても、当該労働者の人事その他の労働条件などの労働関係上の諸利益に対し現実的かつ具体的な影響力ないし支配力を及ぼし得るものは、不当労働行為の主体たる「使用者」に含まれるものと解するのが相当である。以下、本件救済申立てにおいて、訴外国が、右の意味での「使用者」に該当するかどうか検討する。

3  <証拠>を総合すれば、次の各事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(一)  簡易生命保険の団体取扱制度

訴外国は、郵政省の統轄の下に、簡易生命保険事業を行っている。右事業において、簡易生命保険約款(以下、「約款」という。)五三条は、「事業所又はその他の団体に属する者が一五個以上の基本契約の申込みをしようとする場合において、各基本契約を一団として保険料の併合払込をするものにあっては、保険料の払込みについて団体取扱の請求をすることができる」旨規定し、右規定に従い、団体取扱請求書を郵便局に差し出し、郵便局の承認を得た団体(以下、「払込団体」という。)は、約款五四条二項により、「保険料の一〇〇分の七(団体代表者に対する取扱手数料一〇〇分の二を含む)の割引」を受けることができる(以下、「団体取扱制度」という。)。

(二)  払込団体の結成と推移

団体取扱制度は、郵便局側では、保険料の集金業務を払込団体に委ねることにより集金コストを低減するなどのメリットがあり、加入者側では、保険料の割引が受けられるメリットがあるので、有利な制度として発展した。

払込団体は、当初は、主に、会社や工場などの職域団体及びPTAや婦人会などの地域団体を母体として結成され、これらの団体は、保険料の割引額を積み立て、団体の設備の拡充や行事の費用に充てるなどして、団体の活動に活用していた。

しかし、昭和四〇年代ころから、保険料の割引額の活用対象は旅行、観劇、人間ドッグなどへと多様化し、同趣会、同好会を母体とする払込団体(以下、「同趣同好団体」という。)が増加するようになった。

(三)  払込団体の結成及び追加加入についての訴外国(横浜中央郵便局)の勧奨

団体取扱制度のメリットを生かしつつ、保険契約量を増加させるため、横浜中央郵便局においても、当初は、保険契約の加入者に対し、積極的に、払込団体の結成及び同団体への追加加入を勧奨した。すなわち、同郵便局の外務職員は簡易生命保険の募集をする際、払込団体の加入申込書を常時持参し、団体取扱制度のメリットを説明して、払込団体への加入を勧めるなどした。

(四)  局連合会の組織化

昭和四六年六月の清水局事件に端を発し、団体取扱制度の悪用や、不正話法による募集に対する告発が相次ぎ、社会問題化するなかで、昭和四七年一二月二五日、郵政省は、各郵便局ごとに局連合会を組織することにより同趣同好団体の組織と運営の適正化、事故防止を図る旨の通達を発し、郵便局は、局連合会を通じ局連合会及びそれを組織する払込団体の指導及び助言を行うべきものとされた。

横浜中央郵便局においても、右の郵政省の方針に基づき、同局の指導の下で、同局管内の旅行会、謝恩会、友の会の三払込団体により、昭和四九年四月一日、連合会が結成された。

(五)  払込団体の代表者等の選任

横浜中央郵便局において、同局の方針に基づき、保険加入者相互間に人的な結びつきのない謝恩会等の(単位)払込団体を組織する場合には、同局の外務員が、保険の募集、勧誘にあたり、適当な人物を選び、代表者及び役員への就任をお願いするという方法により、右の代表者等が選任された。

右のようにして、(単位)払込団体が結成された後は、役員会の互選により会長等の代表者を選任したり、会長の推薦に基づき役員会の承認を受けるという方法で役員を選任したりしていたが、謝恩会等の払込団体の規約に定める会員の互選という方法はとられていなかった。

なお、払込団体は事務局を置き、その事務員ないし事務局長には郵便局を定年退職した者等の経験者を迎え、同団体の実際の運営は、これに委ねられることが多かった。

(六)  払込団体の原告松木の採用

原告松木は、昭和四六年三月二四日、旅行会と、同年八月一日、謝恩会と、それぞれ保険料集金事務等の委託契約を締結し、昭和四九年四月一日、連合会結成と同時に同会に採用された。

同原告は、右の旅行会から委託集金人として採用される際には、横浜中央郵便局に赴き、同会事務局の福田春夫と共に、当時の同局第一保険課長の安曇球也と会い、同人に対し、履歴書を提出し、その後、委託契約書及び身元保証書を、同会に提出した。

(七)  集金手数料単価の引上げ

原告松木ら集金人四名は、昭和四九年五月ころ、当時の連合会谷川事務局長に対し、集金手数料単価の引上げ、社会保障、諸手当、賞与、退職金等の労働条件の改善を要求したところ、具体的な回答が得られないため、横浜中央郵便局の高野保険課長に対しても右の要求をなし、話し合いを重ねた結果、同年九月、右谷川事務局長及び高野保険課長同席の場で、集金手数料単価の引上げが決定された。

その後、同五〇年四月ころ、同原告らは、再度、右の単価の引上げ要求をなし、同年九月、これを実現させたが、このときにも、右谷川事務局長に対する交渉だけでは解決できず、横浜中央郵便局の佐藤保険課長とも話し合いを重ねた結果、同事務局長及び同保険課長同席の場で、単価の引上げが決定された。

(八)  連合会の解散

横浜中央郵便局は、昭和四八年ころ以降、連合会を構成する旅行会、謝恩会及び友の会の追加加入のための勧奨を停止したため(その理由、具体的な時期などについては後に認定のとおりである。)、連合会の集金業務量は次第に減少し、相対的に事務経費がかさみ、昭和五七年七月三一日付けで解散することとなった。

4 右認定事実を総合すれば、払込団体の結成自体、訴外国(横浜中央郵便局)が積極的に指導したものであり、その代表者、役員の選任など払込団体の運営にも、訴外国(横浜中央郵便局)は相当程度関与していることから、原告松木ら集金人において、連合会等の払込団体の運営について実質的な決定権を有していたのは訴外国(横浜中央郵便局)であって、連合会はその傀儡にすぎないとの印象を抱くに至ることも、理解できないではない。

しかしながら、右認定のとおり、簡易生命保険の団体取扱制度は、本来、訴外国(郵便局)が行う保険料の集金業務を払込団体に委託するものであるから、訴外国(郵便局)が連合会等の払込団体に対し、業務上必要な指導、助言を行うのは当然のことであり、ことに、団体取扱制度の悪用や不正な募集が社会問題化するに至って、業務上の指導は強化されたものと推認することができる。

このような観点からみると、右認定にかかる訴外国(横浜中央郵便局)の諸行為は、いずれも業務上必要な指導、助言の範囲内のものということができる。

したがって、右認定事実から直ちに、訴外国(横浜中央郵便局)が実質的経営者であるとし、原告松木ら集金人の労働条件等労働関係上の諸利益に対し、現実的かつ具体的な支配力を有していたものと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

また、訴外国(横浜中央郵便局)が、連合会の解散に伴う原告松木ら集金人の解雇について、具体的に指示していたとの事実を認めるに足りる証拠もない。

以上によれば、訴外国は本件について当事者適格(被申立人適格)を有しないとして、国に係わる本件救済申立てを却下した本件命令は正当であり、原告らの主張するような違法はない。

三請求の原因2(二)(原告松木の解雇)について検討する。

1  同2(二)(1)の事実は当事者間に争いがない。すなわち、本件命令は、連合会の原告松木に対する解雇の意思表示が労働組合の結成及び活動を嫌悪してなされたとする同原告らの主張は、首肯しがたいとして、本件救済申立てを棄却している。

ところで、救済命令申立事件において救済申立棄却の処分をうけた者は、右の処分取消訴訟において、その請求の原因として、単に当該処分の違法であることを主張するだけでは足りず、棄却された事項が不当労働行為を構成すものであることについて主張立証責任を負うものと解するのが相当である。

したがって、本件取消訴訟においても、連合会の原告松木に対する解雇の意思表示が労働組合の結成及び活動を嫌悪してなされたものであるかどうかについて、原告らが、主張立証責任を負うものというべきである。

2  請求の原因2(二)(4)①の(各払込団体の集金保険料額の推移)については、当事者間に争いがない(但し、一万円未満切捨て)。すなわち、次の表のとおりである。<編注・上表>これを、グラフ化すると、別表1、2のようになる。

旅行会

謝恩会

友の会

昭和四五年度

二六六四七万円

三九〇七六万円

昭和四六年度

二九七二二万円

九三〇一六万円

昭和四七年度

三二〇三一万円

一一一三八一万円

昭和四八年度

三四三四一万円

一一二四二三万円

二九二二万円

昭和四九年度

三四五一二万円

一〇五九三四万円

三〇七九万円

昭和五〇年度

三五〇三七万円

九九八九七万円

四一二八万円

昭和五一年度

三一一五一万円

九四二〇〇万円

二七六三万円

昭和五二年度

一七二四五万円

五二一四一万円

一五二六万円

昭和五三年度

二七五八〇万円

八四九〇四万円

二五七九万円

昭和五四年度

二四四九一万円

七八四五一万円

二四三六万円

昭和五五年度

一六三一五万円

七五六八九万円

二五四七万円

昭和五六年度

一二六七六万円

四四八六一万円

二二二七万円

なお、証人深川康久の証言によれば、右の表のうち、昭和四五年度は、同年九月から翌四六年八月までの期間であり、同様に、同五一年度までは同年九月から翌年八月までの期間であるが、同五二年度は、会計年度の期間が変更され、同年九月から翌年三月までの期間(七か月間)となっており、同五三年度からは、同年四月から翌年三月までの期間となっていることを認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

3  <証拠>を総合すれば、次の各事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(一)  同趣同好団体に対する郵政省の対応

昭和四〇年代後半ころ、同趣同好団体について、都信用事件など、全国的に内部告発や集金保険料の不正流用等の不正事件が発生し、また、全逓信労働組合では集金業務の合理化の問題として取り上げるなどしており、郵政省もその対応を余儀なくされ、前認定のとおり、局連合の組織化を図るなどの改善策を実施した。

(二)  東京郵政局の指導

東京郵政局(後に、東京郵政局と関東郵政局に分割)は、同趣同好団体が「リベート」団体とみられる場合には、その組成及び拡充(追加加入)のための勧奨を行わない方針を決め、管内の各郵便局に指導するようになった。ここで、「リベート」団体とは、現金、小切手、商品券等の交付のみを目的とする払込団体をいう。

(三)  横浜中央郵便局の勧奨停止措置

横浜中央郵便局は、右の指導に従い、昭和四七年九月ころ、謝恩会はデパートの商品券で割引額の還元を行っている「リベート」団体であるから、その追加加入のための勧奨を行わない旨の方針を決定した。

さらに、同郵便局は、同趣同好団体のうち、行事不参加者が常態的に団体構成員の四〇パーセント以上になっているものは、「リベート」団体とみなすという関東郵政局の指導に従い、昭和四八年九月ころ、旅行会、友の会の追加加入のための勧奨を行わない旨の方針を決定した。

(四)  集金保険料額の推移

昭和四五年度以降の各払込団体の集金保険料額の推移は、前記2の表(及び別表1、2のグラフ)のとおりである。これによれば、連合会の合計集金保険料額は、同会の結成時期を含む昭和四八年度をピークとして、減少の一途をたどっている。昭和五二年度から同五三年度にかけての増加は、前認定のとおり、一会計年度の期間が変更されたことに伴うもので、実質的な増加があったわけではない。

なお、連合会を構成する払込団体のうち、旅行会及び友の会の各集金保険料額は、昭和四八年度以降も若干の増加を続け、いずれも同五〇年度がそのピークとなっている。

(五)  労働組合の結成と団体交渉の経緯

原告松木らは、昭和五一年六月二日、団体簡易保険労働組合を結成し、同日、連合会に対し、組合結成通知書及び団体交渉申入書を提出した。これに対し、連合会は、原告松木らは委託契約に基づく集金人であり、労働者ではないとして、団体交渉を拒否したため、原告松木らは、被告に対し、不当労働行為救済申立てを行い、被告は、昭和五三年七月二八日、原告松木らの労働者性を認め、団体交渉応諾の救済命令を発し(神労委昭和五二年(不)第一二号)、右命令は確定した。その後、原告松木らと、連合会との間では、集金手数料の引上げ等の要求について、多数回の団体交渉が行われた。

(六)  集金人佐藤晋の解雇

集金人佐藤晋は、右の団体簡易保険労働組合の書記長として、原告松木らと共に中心的に組合活動を行っていたが、連合会は、昭和五二年三月ころ、右佐藤に対し、委託契約期間満了を理由として、解雇予告の意思表示をなし、同人はこれに応じて退職した。

なお、連合会において、委託契約期間満了を理由として解雇予告を受けた集金人の例は他にない。

(七)  各払込団体の規約の改正

連合会は、集金保険料額の減少に伴い、相対的に事務経費が増大し、事業の継続が困難となってきたことから、昭和五四年一二月一〇日、各払込団体においてその規約を一部改正し、その事業期間の終期をそれぞれ、謝恩会については、昭和五六年二月二四日まで、旅行会については同年五月三一日まで、友の会については同年四月一五日までとした。

(八)  連合会の解散と原告松木らの解雇

連合会は、さらに、集金保険料額の減少及び事務経費の増大が進んだことから、昭和五七年七月末日をもって、連合会を解散することをその役員会で決議し(その際、個々の会員の意見を聞いたり、承諾を得たりするということはなされていない。)、同年五月三一日付けで、横浜中央簡易保険払込団体保険料集金事務等委託契約六条二項(「前項に定める場合のほか集金件数のいちじるしい減少または事業計画の変更に伴い、必要のある場合には、二か月前に予告してこの契約を解除することができる。」との規定)に基づき、同年七月三一日付けで解雇する旨の通知書を、任意に退職届を提出した二名を除く原告松木ら集金人六名全員に対し、交付した。

右の集金人のうち、原告松木だけが組合員であった(原告総評全国一般労働組合神奈川地方本部に個人加盟)。

なお、連合会は、同年七月三一日解散し、同年一〇月三一日、その清算を結了した。

(九)  他の郵便局における払込団体の存在

横浜中央郵便局管内の払込団体は、右のとおり解散したが、他の郵便局(例えば、保土ヶ谷郵便局、戸塚郵便局、千葉郵便局など)においては、昭和五〇年代においても、旅行会、観劇会、人間ドッグ友の会などの払込団体が新規に結成されたり、追加加入の勧奨が行われたりしており、同年代後半ないし昭和六〇年代においても、なおこれらの払込団体は、多数存在している。

4  原告らは、右3(三)の事実のうち、横浜中央郵便局の勧奨停止措置の決定時期については、原告松木らが労働組合を結成した昭和五一年六月二日より後である同五一年九月以降である旨、主張するので、この点についてさらに検討する。

なるほど、右3(四)(集金保険料額の推移)のとおり、旅行会及び友の会について、その集金保険料額のピークは、いずれも昭和五〇年度(同五〇年九月から翌五一年八月の期間)となっている。

しかしながら、証人山本保および同近藤久は、いずれも、当時の横浜中央郵便局の保険課長であり、自己の経験に基づいて、その勧奨停止措置の決定時期について、明確に証言していること、同証人らの証言によれば、郵便局の勧奨がなくても保険契約者側において追加加入する場合もあり得ることが認められること、昭和四八年度から同五〇年度にかけての旅行会及び友の会の集金保険料額の増加率自体は、そう大きいものではないこと、前顕乙第九八号証によれば、原告松木自身、本件命令の審問手続においては、新規の契約者がなくなってきたのは、昭和四八年九月ころ位である旨供述していることが認められること及びその他前認定各事実を総合すると、なお、右3(三)の事実認定を覆すには足りないものといわざるを得ない。

したがって、この勧奨停止措置の決定は、原告松木らの組合結成を嫌悪してなされたものであるという原告らの主張事実は、その時期の前後関係からみて、これを認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

5 以上の事実によれば、原告松木らの組合結成以降、連合会の解散に至るまでの、訴外国(横浜中央郵便局)の追加加入の勧奨の停止措置の継続及び連合会の解散の決定手続などについて、訴外国または連合会側に、原告松木らの組合活動に対する反感が、まったく窺えないわけではないが、連合会の解散の主たる理由は、組合結成以前の訴外国の追加加入の勧奨の停止措置による集金量の減少(とくに、謝恩会)及びこれに伴う事務経費の相対的な増大によるものと認められるから、解散の原因はすでに組合結成以前に発生していたものと認めるを相当とし、したがって、少なくとも、連合会が不当労働行為意思を決定的動機として、同会を解散し、原告松木らを解雇したと認めることはできない。

また、訴外国の追加加入の勧奨の停止措置の継続自体が、不当労働行為意思に基づき、連合会の解散及び原告松木らの解雇を目的としたものであり、かつ連合会がこれに関与していると認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

したがって、結局、請求の原因2(二)(2)ないし(5)について、原告ら主張の不当労働行為の事実は、これを認めるに足りる証拠はない。よって、本件救済申立てを棄却した本件命令は、結論において正当であるというべきである。

四以上のとおりであるから、本件命令に原告らの主張するような違法はなく、原告らの本訴請求は、いずれも理由がない。

よって、原告らの本訴請求は、いずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官渡邊昭 裁判官青山邦夫 裁判官青木晋)

別紙

命令書

申立人

総評全国一般労働組合神奈川地方本部 執行委員長

三瀬勝司

松木伝十

被申立人

郵政大臣

奥田敬和

同 横浜中央簡易保険払込団体連合会 副会長

中端春雄

主文

1 申立人らの被申立人国に係わる申立てを却下する。

2 申立人らのその他の申立てを棄却する。

理由

第一 認定した事実

一 当事者

(1) 申立人総評全国一般労働組合神奈川地方本部(以下「地本」という。)は、肩書地に事務所を置き、個人及び団体加盟の組合員により構成されている労働組合であり、本件申立て時の組合員は約二三〇〇名であった。

(2) 申立人松木伝十(以下「松木」という。)は、昭和四六年三月二四日横浜中央簡易保険旅行会(以下「旅行会」という。)と同年八月一日横浜中央簡易保険謝恩会(以下「謝恩会」という。)とそれぞれ保険料集金事務等の委託契約を締結した。また、松木は、昭和四九年四月一日横浜中央簡易保険払込団体連合会が結成されると、同連合会に採用され保険料集金業務に従事するようになった者である。なお、松木は、本件申立て時地本に個人加盟していた。

(3) 被申立人国は、郵政省の統轄下において郵便に関する事業を営み、その一つとして簡易生命保険事業を行っている。この事業における国と簡易生命保険契約者との関係は、簡易生命保険法及び簡易生命保険約款(以下「約款」という。)に定められており、約款第五三条では「事業所又はその他の団体に属する者が一五個以上の基本契約の申込みをしようとする場合において、各基本契約を一団として保険料の併合払込みをするものにあっては、保険料の払込みについて団体取扱の請求をすることができます。」と規定している。この規定に従って団体取扱請求書を郵便局に差し出し、郵便局の承認を得た団体(以下「払込団体」という。)は、約款第五四条第二項の規定により「保険料の一〇〇分の七(団体代表者に対する取扱手数料一〇〇分の二を含む)の割引」を受けることができることになっている。

(4) 被申立人横浜中央簡易保険払込団体連合会(以下「連合会」という。)は、払込団体の事故防止をはかり、集金事務を合理化、能率化するため、郵便局ごとに局連合会をつくるという郵政省の方針に基づいて、横浜中央郵便局(以下「横浜中郵」という。)管内の旅行会、謝恩会及び横浜中央簡易保険人間ドック友の会(以下「人間ドック友の会」という。)の三払込団体が、昭和四九年四月一日に一本化してできたものである。

なお、本件申立て時、連合会の会長であった後藤浩次は、昭和五八年九月六日に死亡している。連合会規約第八条では、「会長は、この会を代表して会務を掌理する。副会長は、会長を補佐するとともに会長事故あるときは、その職務を代行する。」と規定している。本件申立て時の副会長は中端春雄であった。

2 払込団体の松木の採用

松木は、昭和四六年三月二四日委託集金人として旅行会に採用された。

同日、松木は、紹介者の小林茂元鶴見郵便局保険課長代理の指示により、横浜中郵に赴き、旅行会事務局の福田春夫同席のもとに当時の横浜中郵の第一保険課長の安曇球也と会い、同人に履歴書を提出した。その後、松木は、同日付けの保険料集金事務等委託契約書と身元保証書を旅行会に提出した。

昭和四六年八月一日、松木は、旅行会と謝恩会の業務合併に伴い、謝恩会の委託集金人に採用された。これは、一か月前の「月例会(職員、集金人が毎月一回集り、集金の仕方のことなどを相談する会合)」に安曇課長が出席して「一軒の家で旅行会と謝恩会の両方に入っている場合、別々の日に、別々の人が集金にくるのはめんどくさいので、一緒にしてもらいたいと契約者の方からの要望もあり、内部事務も一人の収納係ですむことなので、旅行会と謝恩会の業務を一緒にした方が良い。」と説明したことに応じてなされたものであった。

3 連合会結成の背景

(1) 払込団体の推移

保険料団体払込制度は、大正五年一〇月一日簡易生命保険創業以来の制度であり、本来同じ職業や町自治会、婦人会、PTAなど同じ地域にある人達が、一五個以上の基本契約(被保険者一五人以上)の保険料をまとめて郵便局に払い込むことにより一定の保険料の割引が受けられるという制度である。

これは、郵便局からみれば集金手数が省け、更に失効、解約、延滞が少なくなるという大きなメリットがあり、また一方、加入者にとっても、保険料の割引が受けられるので、有利な制度として歓迎され、特に昭和三〇年代前半から積極的にその組成が進められてきた。

昭和三〇年代における払込団体は、会社や工場などの職域団体とPTAや婦人会などの地域団体がほとんどで、PTA、婦人会などではその割引額を積み立て、教育施設の補完や会の設備、行事費等に充てるなどその団体の活動に活用していた。

しかし、昭和四〇年代の前半になると折からの高度経済成長の影響を受けて契約者の意識や行動も変化し、割引額の活用対象も旅行や観劇、人間ドック等へと多様化してきた。

このような情勢の変化の中で、団体組成も従来の職場やPTA、町自治会等を母体とする払込団体から、同趣会、同好会を母体団体とする払込団体組織へと大きく変ってきた。その結果、同趣同好団体の組成が全国的に行われ、その数も増大するに至った。

(2) 同趣同好団体の問題点

同趣同好団体は、契約者の要望に裏づけられて組成されたものの、次のような問題を生ずるようになった。①団体の運営や行事の実施等に郵便局が関与しているとみられること。例えば、旅行の場合、郵便局員が添乗して世話をしたり、バスの横断幕に郵便局名を表示するなどして、あたかも郵便局主催の招待旅行であるような印象を与えたことや、また、団体内の集金や資金の保管を外務員や保険課幹部が行ったり、事務局を局内に置くなど、団体運営事務に郵便局が関与しているような認識を与えたことがある。②団体内での集金等団体運営の中で事故が起きた場合は、郵便局の責任であるとみられること。例えば、団体が集金事務を委託した集金人が集金保険料を流用したような場合、本来、団体内部の問題として処理されるべきものであるところ郵政省の責任であるとみられたことがある。③会の目的、しくみ等についての団体構成員の認識が不十分であること。例えば、代表者、役員名、会の規約等を知らなかったこと、あるいは、団体代表者、事務局が独走して割引額の使途に不明朗なケースも発生したことがある。④募集の仕方に適正を欠く場合があったこと。例えば、加入者の知らないうちに団体に加入させたり、あたかも郵便局の招待であるかのような話法や不当な制限話法を用いたことがある。

(3) 全逓信労働組合の対応

昭和四六年六月の清水局事件などの簡易生命保険不正事件に対処して、全逓信労働組合(以下「全逓」という。)は、「団体組成問題は単にこれのみに取組むというのではなく、不正事件を惹きおこす根源となる郵政省の募集施策方針の粛正をはからせることおよび労働者自らがこの不正に加担しないという労働者自律運動の確立である。」との基本方針を定め同趣同好団体組成反対の運動を進めた。

「団体組成そのものがもつ基本的性格は、毎年の募集目標を超過達成させるという増募達成第一主義を貫くために、奨励労働者にミニ話法、ジャンボ契約という安易な募集技術を駆使させて簡保本来の使命をおきざりにし、労働者を募集の魅力のトリコにさせて、その労働者魂を抜きとることにある。」という認識に全逓は立っていた。

そして、全逓は、集金の合理化につながって将来人減らしにつながる恐れがあることから、同趣同好団体は、約款五三条による「団体」の定義上、その団体性に疑義があるとして、同趣同好団体の廃止を郵政省に要求していった。

(4) 郵政省の対策

全国の団体組成反対の運動に対し、郵政省がとった方針は、「同趣同好団体といえども約款五三条にもとずく団体である」として、「団体組成の推進はゆずれない」というものであった。

しかし、現実には郵政省は、この方針を変更しないとしながらも、全逓の闘いなどにより、「団体性の薄い団体」の新規組成の手控えや改組措置を指導するようになった。

(5) 局連合会の組織化

昭和四六年六月の清水局事件に端を発し、団体払込制度を悪用したり、不正話法を駆使したりした簡保不正募集に対する内部及び外部告発が相次いだ。そこで、昭和四七年一二月二五日郵政省は、郵保業第二七三号「保険料払込団体の組織運営について」の通達を発した。この通達は、「同好会、同趣会等を母体とする保険料払込団体については、その発生の経緯もあって団体運営上諸種の問題点を内蔵している。」ということで、そのためこれら払込団体の組織と運営についての基準を定め、その組織と運営の適正化により、事故防止等をはかろうというものであり、そのなかで各郵便局ごとに「局連合会」を組織するとされたのである。その後の「通達第二七三号修正要旨」によると、局連合会は、個々の払込団体の事務処理を一本化し、合理的な運営を図ることによって事務費の節減を図るとともに、払込団体を適正に運営することにより、団体構成員の利益を擁護するものである。局連合会の組織は、原則として、同一の郵便局を受持局とする払込団体をもって局連合会を組織する。局連合会は、集金事務等について、局連合会を組織する払込団体を代表して郵便局との接触もしくは窓口を勤め、一方郵便局は、局連合会を通じ局連合会及びそれを組織する払込団体の指導及び助言を行うと、されていたのである。

4 連合会解散に至る経緯

東京郵政局(現在は、東京郵政局関東郵政局に組織分割されている。)は、昭和四七年六月以降、同趣同好団体が「リベート団体」とみられる場合には、その組成及び拡充(追加加入)のための勧奨を行わない方針を決め、管内の各郵便局に指導するようになった。ここでいう、同趣同好団体とは、母体団体の活動の一環として団体払込制度を活用していない払込団体のことで、連合会を構成する旅行会、謝恩会、人間ドック友の会の三団体は、いずれも同趣同好団体とされていた。

また、「リベート団体」とは、現金、小切手、商品券、品物等の交付のみを目的とする払込団体のことである。連合会を構成する謝恩会はデパートの商品券で還元を行っているので「リベート団体」とみられ、昭和四七年九月横浜中郵は、謝恩会に対する追加加入のための勧奨を行わないことを決定した。

同趣同好団体のうち、行事不参加者が常態的に団体構成員の四〇パーセント以上となったものは、「リベート団体」とみなされることとなったため、横浜中郵は昭和四八年九月旅行会、人間ドック友の会の追加加入のための勧奨を行わないことを決定した。

連合会の年別集金内容を昭和四八年から表に示すと次のとおりである。ただし、四八年八月は、連合会結成前であるので、各払込団体の合計である。

年・月

件数

48年を100

とした指数

表定保険料

(円)

48年を100

とした指数

48・8

28,907

100

130,923,679

100.

49・8

26,764

92・6

123,722,875

94.5

50・8

25,110

86・9

116,618,600

89.1

51・8

23,192

80・2

109,900,428

83.9

52・8

21,465

74・3

103,923,001

79.4

53・8

19,473

67・3

97,184,955

74.2

54・8

17,194

59・5

89,202,791

68.4

55・8

14,600

50・5

77,051,128

58.8

56・8

10,790

37・3

52,426,491

40.0

57・7

6,012

20・8

28,261,976

21.5

このように、昭和四八年以降、追加加入のための勧奨を横浜中郵がとりやめたため、集金量が固定し、その後、満期、転出解約等による自然減少により、集金業務量が減少の一途をたどった。

そして、連合会は、集金量の減少にともない相対的に事務費がかさみ、昭和五七年七月三一日で解散することになった。

5 集金手数料単価の引上げの経緯

連合会結成後の昭和四九年九月、集金手数料単価が引上げられた。旅行会のは、一件につき八〇円が九〇円に、謝恩会、人間ドック友の会のは、一〇〇円が一三〇円に引き上げられたというものである。

郵政関係退職者でない松木ら四人の集金人は、同年五月ころ集金手数料単価の引上げ、社会保障、諸手当、賞与、退職金等労働条件の改善を、当時の谷川事務局長に口頭で要求した。この要求に対し、谷川事務局長は、「即答はできないから考えておく。」とか、「役員会を開いて役員の意向を聞いてくる。」とかいって、具体的な回答をしなかった。そこで、四人は、横浜中郵の高野保険課長と郵便局や連合会事務所で、四回ほど話合いをした。高野保険課長は、はじめのうちは「そんなことはできない。自分のところへくるのは筋違いだ。」といっていた。しかしながら、最終的には、高野保険課長と谷川事務局長が同席の場で、集金手数料単価の引上げが前記のとおり決定された。ところが、集金手数料単価の引上げ以外の要求事項については、実現することはできなかった。

その後、昭和五〇年九月に、同年四月に遡って、再度、集金手数料単価が引上げられた。旅行会のが九〇円から一〇〇円に、謝恩会、人間ドック友の会のが一三〇円から一六〇円に引上げられたものである。この時も、前記四人の集金人が、同年四月に連合会に対し集金手数料単価の引上げを要求し、連合会レベルでは解決できずに、横浜中郵の佐藤保険課長に要求することになった。同年四月から八月まで、四人が郵便局に出かけたり、連合会事務所に佐藤保険課長に来てもらったりして交渉を重ね、最終的には、谷川事務局長、佐藤保険課長が同席して、同年九月、再度の集金手数料単価の引上げの金額が提示されたのであった。

6 地本と連合会との団体交渉の経緯

昭和五一年六月二日、松木は連合会に雇用されている集金人とともに団体簡易保険労働組合を結成し、松木が執行委員長に就任し、同時に地本に団体加盟した。なお、その後組織形態に変更がみられ、松木は地本に個人加盟することになった。地本は、昭和五一年六月二日連合会に対し、組合結成通知書と団体交渉申入書を提出した。しかし、連合会は、松木らは委託契約に基づく集金人であり、労働者ではないとして、この団体交渉を拒否しつづけた。そこで、地本は、昭和五二年四月一五日当委員会に対し、昭和五二年(不)第一二号事件として団体交渉応諾の不当労働行為救済申立てを行った。これに対し、当委員会は、昭和五三年七月二八日、松木らは労働組合法にいう労働者に該たるとして団体交渉応諾の救済命令を発し、その後この事件は確定した。

昭和五三年八月一四日、地本は連合会に対し集金手数料の引上げ等の要求書を提出し、同年九月九日には、三橋事務局長との間で団体交渉が行われ、以後地本と連合会との間では本件申立てに至るまで三七回の団体交渉が行われている。

7 本件申立ての経緯等

(1) 昭和五四年一二月一〇日、三払込団体は、事業期間について、謝恩会が昭和五六年二月二四日まで、旅行会が昭和五六年五月三一日まで、人間ドック友の会が昭和五六年四月一五日までと、それぞれ規約を改正した。

(2) 昭和五七年五月三一日、連合会は、委託契約第六条第二項の「前項に定める場合のほか集金件数のいちじるしい減少または事業計画の変更に伴い、必要のある場合は二か月前に予告してこの契約を解除することができる。」との規定により、松木ら集金人六人全員に対し、同年七月三一日付けで解雇する旨の通知書を手交した。なお、六人の集金人のなかで地本の組合員は松木だけであった。

これに対し、地本及び松木は、同年七月一六日本件不当労働行為救済申立てを行った。

(3) 連合会は、通知どおり同年七月三一日松木らを解雇し、松木に対して退職慰労金三四万円を支払ったが、松木はこの金の受取りを拒否した。

同年一〇月二五日、連合会は松木に対し退職慰労金及び解決金として合計九〇万円を支払ったが、松木はこの受取りも拒否した。

そのため、連合会は同年一〇月二九日横浜地方法務局に前記九〇万円を供託した。

これに対し、松木は、連合会に同年一二月二五日付け内容証明郵便で、供託金を損害賠償金の内金として受領する旨意思表示をしたうえで、横浜地方法務局から還付を受けた。

(4) 同年一一月一三日、連合会は、横浜中郵に対し、「昭和五七年七月三一日に解散、同年一〇月三一日までにすべての債務の弁済を完了する等、残余財産の整理を終了した。」旨の清算結了の報告書を提出した。

(5) 連合会は、同年一一月二二日の第一回審問において、横浜中郵に清算結了の報告書を提出したことによって連合会が消滅した旨述べ、以後の審問に出頭しなかった。

第二 判断及び法律上の根拠

1 国の被申立人適格について

(1) 申立人らの主張

謝恩会、旅行会、人間ドック友の会の三払込団体は、国によって結成されたものであり、したがってこの三払込団体が構成員となっている連合会も国によって結成されたものである。それ故、国は、次のとおり、連合会に働く労働者の採用、労働条件の決定等に際して実質的な決定権を有していた。①松木の旅行会への採用に際し、横浜中郵の第一保険課長が面接した。②集金手数料が過去二回引き上げられたが、いずれも横浜中郵の職制が関与しているなかで決定されている。③連合会では、月一回職員、集金人を出席させ「月例会」と称する会議を開催し、この会議に横浜中郵の職員が出席して業務上の指示をしていた。

以上のことなどから、国は、労働契約上の使用者と同様の支配力を直接、現実かつ具体的に有していたのであるから、労働組合法上使用者と実質的に同一の立場に立つものと解すべきである。

(2) 国の主張

連合会は、国とは別個の独立した任意団体であり、また、国と松木との間には、任用関係はもとよりなんらの労働関係も存しない。したがって、国と申立人らとの間に不当労働行為の問題を論じる余地はない。よって、本件国に係わる請求については却下されるべきである。

(3) 判断

国と松木との間には任用関係はもとよりなんらの労働関係も存しないから不当労働行為の問題を論じる余地はないと、国は主張している。しかしながら、労働組合法第七条に規定する使用者は、単に労働契約上の使用者に限られるものではなく、団結権の侵害を排除するという不当労働行為救済制度の目的から、実質的に労働者の人事、その他の労働条件等労働関係上の諸利益に対し、現実的かつ具体的な支配力を有する者も含まれると解すべきである。そこで、申立人らは、①松木の旅行会への採用に横浜中郵の第一保険課長が面接したこと、②集金手数料単価の引上げに横浜中郵の職制が関与していること、③月例会で横浜中郵の職員が業務上の指示をしていたことなどをもって、国が連合会に働く労働者の採用、労働条件の決定等に対し実質的に支配力を有していたと主張しているので以下判断する。

簡易生命保険の団体取扱制度は、本来国が行うべき簡易生命保険の保険料集金等の業務を払込団体にまかせることにより成り立っている。この団体取扱制度の本質からみて、国が連合会に対して業務上必要な指導、助言を行うことは当然なことといえる。ところで、①認定した事実3の(5)のとおり、郵便局が連合会の指導及び助言を行うとされていたこと、②認定した事実2にみられるように、横浜中郵は月例会で連合会の集金人に対し集金の方法など業務上の指示をしていたこと、③認定した事実1の(4)のとおり、横浜中郵の指導により連合会が結成されたこと、④認定した事実4のとおり、横浜中郵において追加加入のための勧奨を行わない措置をとったため連合会が解散せざるを得なかったこと、⑤認定した事実2のとおり、連合会の構成団体である旅行会が松木を採用する際に横浜中郵の第一保険課長が会っていること、⑥認定した事実5のとおり、集金手数料単価の引上げに関し横浜中郵の保険課長が関与していたことが、認められる。しかしながら、以上のことは、その性質上いずれも業務上必要な指導、助言の範囲内のことであり、このことをもって、国が松木ら集金人の労働条件等労働関係上の諸利益に対し、現実的かつ具体的な支配力を有していたとまではいえない。また、国が松木ら集金人の解雇について具体的に指示していたとの事実も認められない。

よって、国は本件について当事者適格を有しないから、主文のとおり国に係わる申立ては却下を免れない。

2 連合会の被申立人適格について

松木は、認定した事実1の(2)のとおり、連合会が結成されると連合会に採用され保険料集金業務に従事した。

また、認定した事実6のとおり、昭和五二年(不)第一二号事件で当委員会が連合会に対し団体交渉応諾の命令を発したのち、連合会はこの救済命令に従い以後地本との間で37回にわたる団体交渉をしている。このことから、連合会が松木を労働組合法第七条にいう「雇用する労働者」と認識していたことが認められ、申立人らが連合会を被申立人として救済を申し立てたことは相当である。

また、認定した事実7の(5)のとおり、連合会は、清算結了の報告をしたことにより連合会が消滅したと主張して、昭和五七年一一月二二日の第一回審問以後の審問に出頭しなかった。しかしながら、本件が当委員会に係属している限り現実に清算を結了したものとは認めがたく、たとえ清算結了報告がなされたのちであっても、連合会は被申立人としての適格を保持しているものと判断する。

3 松木への解雇の意思表示と不当労働行為の成否について

(1) 申立人らの主張

国及び連合会は、連合会内に労働組合が結成された直後の昭和五一年度から昭和五二年度にかけて、意図的に追加加入を認めないという措置をとり、一方では意図的に適正化団体への移行努力を怠って、遂には昭和五七年七月連合会を解散させた。

国及び連合会は、連合会の解散を意図し、それに伴い昭和五七年五月三一日松木に対し委託契約条項により、同年七月三一日付けでもって解雇する旨の意思表示をした。

上記解雇の意思表示は、松木が組合員であることを理由になされたものであり、労働組合法第七条第一号、第三号に規定する不当労働行為である。

(2) 連合会の主張

横浜中郵が募集した簡易生命保険加入者について、連合会の構成団体である謝恩会は昭和四七年九月以降、旅行会、人間ドック友の会は昭和四八年九月以降、横浜中郵が団体加入の追加を認めないこととした。そのため、集金量が固定し、その後の満期終了等によって集金業務が自然減少をしたため、連合会は解散を余儀なくされた。

よって、連合会は、松木を含む六名の集金人に対し、昭和五七年七月三一日付けで解雇する旨、二か月前の五月三一日に言い渡したものである。

集金業務量減少の不可避的原因が発生したのは組合結成以前のことである。

したがって、集金業務量の減少、連合会の解散及び松木の解雇は、労働組合の結成、活動と全く関係のないところである。

(3) 判断

認定した事実3のとおり、同趣同好団体については、全国的に内部告発や不正事件が発生し全逓も合理化の問題として取り上げていた。これに対し、郵政省も対応を余儀なくされ改善策を講じていたところである。そして、認定した事実4のとおり、東京郵政局は謝恩会のようなリベート団体並びに旅行会、人間ドック友の会のようなリベート団体とみなされる団体についても、追加加入のための勧奨を行わない方針を決定した。こうした方針に従って、横浜中郵は昭和四七年九月に謝恩会、翌四八年九月には旅行会、人間ドック友の会に対する追加加入のための勧奨を行わないことを決定した。そのため連合会としての集金量が昭和四八年を契機に減少し、相対的に連合会の事務経費がかさみ、昭和五七年七月三一日連合会が解散することになった。そこで、認定した事実7の(2)のとおり、連合会は昭和五七年五月三一日に松木ら集金人六名全員に二か月後に解雇する旨の意思表示をしたことが認められる。

以上の事実からみれば、連合会に組合が結成された昭和五一年六月二日以前の昭和四七年九月及び昭和四八年九月に横浜中郵において追加加入のための勧奨を行わないことを決定しているのであり、その結果として、連合会が解散に追い込まれ、それに従い松木を解雇する旨の意思表示があったものと判断せざるを得ない。よって、連合会の松木への解雇の意思表示が、労働組合の結成及び活動を嫌悪してなされたとする申立人らの主張は時日の経過からみて首肯しがたいところである。

また、認定した事実7の(2)のとおり、連合会は、唯一の組合員である松木だけでなく集金人六人全員に解散に伴う解雇の意思表示を行っているのであるから、松木に対する解雇が同人の組合活動を嫌悪してなされたとの申立人らの主張は採用することはできない。

なお、申立人らは不当労働行為によって蒙った損害金の支払を求めているが、本件松木への解雇の意思表示に対する不当労働行為の成否については前記判断のとおりであり、申立人らの請求は不当労働行為によるものであるとの前提を欠いているので主文のとおり棄却せざるを得ない。

4 法律上の根拠

以上の認定した事実及び判断に基づき、当委員会は労働組合法第二七条並びに労働委員会規則第三四条及び同第四三条を適用して主文のとおり命令する。

別紙 別表1、2<省略>

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